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フリーランスが備えるべきリスク対策:保険・保証制度の活用と事業継続計画

Tags: フリーランス, リスク管理, 保険, 事業継続計画, セーフティネット, 働き方

フリーランスが安心して働くためのリスク対策とは

フリーランスとして働くことは、自身のスキルや情熱を仕事に直接活かせる大きな魅力があります。しかし同時に、会社員が享受できる様々なセーフティネットがない状況で、ご自身の事業(そして生活)を継続していくためのリスク管理は不可欠です。

収入の不安定さ、病気や怪我による就業不能、業務上のトラブルによる損害賠償請求など、フリーランスが直面しうるリスクは多岐にわたります。これらのリスクに適切に備えることは、単に不測の事態から身を守るだけでなく、心理的な安心感を得て、より本業に集中し、持続的にキャリアを築いていくための重要な基盤となります。

この記事では、フリーランスが想定すべき主なリスクを確認し、それらへの具体的な備えとして有効な保険や公的・準公的制度の活用、そして「事業継続計画(BCP)」の考え方について解説します。

フリーランスが直面しうる主なリスク

フリーランスの働き方は多様ですが、多くの個人事業主が共通して直面する可能性のあるリスクをいくつか挙げます。

これらのリスクは、フリーランスの事業継続や生活基盤に深刻な影響を与える可能性があります。

リスク対策の基本戦略

これらのリスクに対し、どのように備えるべきでしょうか。リスク管理の基本的な考え方は以下のステップです。

  1. リスクの特定と評価: ご自身の事業内容や働き方を踏まえ、どのようなリスクがあり得るかを洗い出し、それぞれの発生可能性と影響度を評価します。
  2. リスクへの対応策の検討: 特定したリスクに対し、以下のいずれか、あるいは複数の対応策を検討します。
    • 回避: リスクの高い業務や取引を避ける。
    • 軽減: リスク発生の可能性を減らす(例:セキュリティ対策の強化)または、発生時の影響を小さくする(例:データのバックアップ)。
    • 移転: リスクの一部または全部を第三者に引き受けてもらう(例:保険への加入)。
    • 受容: 発生可能性が非常に低いか、発生時の影響が軽微であるリスクは、あえて特別な対策を講じず受け入れる。

フリーランスにとって現実的な対応策は、「軽減」と「移転」を組み合わせること、そして万が一の場合に備えた「事業継続計画(BCP)」を立てることです。

具体的なリスク対策:保険の活用

リスク移転の代表的な手段が保険です。フリーランスが検討すべき主な保険を以下に挙げます。

1. 所得補償保険

病気や怪我により一定期間働けなくなった場合に、契約に基づいた所得を補償する保険です。国民健康保険には会社員のような傷病手当金の制度は原則としてありません(一部の健康保険組合を除く)ので、フリーランスにとって就業不能時の収入減リスクへの備えとして非常に有効です。保障される期間や金額、免責期間などを確認して選びます。

2. 賠償責任保険

業務遂行上の過失により、クライアントや第三者に経済的な損害を与えてしまった場合の損害賠償金を補償する保険です。取り扱う情報やサービス内容に応じて、以下のような種類があります。

ご自身の業務内容に即した保険を選ぶことが重要です。

3. 生命保険・医療保険

ご自身の万が一の事態や入院・手術に備える基本的な保険です。民間の医療保険に加入することで、国民健康保険だけではカバーしきれない高額療養費制度適用外の費用や、入院中の生活費などを補うことができます。

4. その他の保険

具体的なリスク対策:公的・準公的制度の活用

保険以外にも、フリーランスが活用できる公的なセーフティネットや準公的な共済制度があります。

1. 国民年金基金・iDeCo(個人型確定拠出年金)

これらは直接的なリスク対策というよりは、将来の老後資金準備のための制度ですが、掛け金が全額所得控除になるため、節税しながら資産形成ができるという側面から、経済的なリスク軽減に繋がります。

2. 小規模企業共済制度

個人事業主や小規模企業の役員のための、退職金積み立てのような制度です。毎月一定額を積み立てておくと、廃業時やリタイア時に共済金を受け取れます。掛け金は全額所得控除になり、積立額は差し押さえの対象にならないため、事業の廃止など不測の事態に備える資金確保として有効です。

3. 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

取引先の倒産により経営が危うくなった際に、積み立てた掛金の最高10倍(上限3,200万円)までを、無担保・無保証人で借り入れできる制度です。連鎖倒産を防ぐためのもので、フリーランスでも加入要件を満たせば加入できます。掛け金は経費算入(または損金算入)できます。

具体的なリスク対策:事業継続計画(BCP)の考え方

BCPとは、自然災害やシステム障害、感染症の流行など、事業継続を困難にする事態が発生した場合に、損害を最小限に抑えつつ、中核となる事業を早期に復旧・継続するための計画です。個人フリーランスの場合も、大規模な災害だけでなく、自身の病気や怪我、家族の介護など、予期せぬ事態で一時的に働けなくなる状況を想定してBCPの考え方を取り入れることが有効です。

個人フリーランスのためのBCPのステップ例

  1. 中核業務の特定: ご自身の仕事で最も重要で、中断すると影響が大きい業務は何かを特定します(例:特定のクライアントとの定例業務、期日の近い納品物作成)。
  2. 想定されるリスクの洗い出し: 中核業務が中断する可能性のある事態(病気、怪我、自宅の損壊、PCの故障など)を具体的に想定します。
  3. 代替手段・復旧策の検討: 各リスクが発生した場合に、どのように中核業務を継続または早期復旧させるかを考えます。
    • データのバックアップ方法(クラウドストレージ、外付けHDDなど複数箇所に保存)
    • 重要な連絡先リストの作成(クライアント、協力者、家族など)
    • 緊急時の連絡手段と伝達内容の準備(状況説明、今後の見通し、代替担当者の手配など)
    • 業務に必要な機器の予備や代替案(PCが壊れた場合の対応策、ネット環境が使えない場合の対策)
    • 信頼できる同業者やパートナーとの連携体制(一時的に業務を引き継いでもらう可能性)
    • 休業中の収入に関する備え(所得補償保険や貯蓄)
  4. 計画の文書化と周知: 検討した内容をリストや簡単なフロー図としてまとめ、家族や信頼できる同業者など、必要な関係者と共有しておきます。
  5. 定期的な見直し: 契約内容や業務体制、生活状況の変化に応じて、計画を定期的に見直します。

大げさに考える必要はありません。最低限これだけは備えておこう、というリストを作るだけでも、いざというときの慌て方を軽減できます。

日々の業務におけるリスク軽減策

日々の業務の中で、リスク発生自体を軽減するための対策も重要です。

まとめ:リスク対策は持続可能な働き方の土台

フリーランスにとってのリスク対策は、ネガティブな「守り」の姿勢として捉えられがちですが、実は「攻め」のための重要な土台です。適切な備えがあるからこそ、目先の仕事に追われるだけでなく、新しいスキル習得や事業拡大といった挑戦に安心して取り組むことができます。

今回ご紹介した保険や公的制度、BCPはあくまで一例です。ご自身の事業内容やライフプラン、経済状況に合わせて、必要な備えは異なります。まずはご自身がどのようなリスクに脆弱かを知り、一つずつ、できることから対策を講じていくことが大切です。

将来への漠然とした不安を具体的なリスクとして捉え、対策を講じることで、フリーランスとしてのキャリアを持続可能なものにしていくことができるでしょう。